冬場、どんよりとした空の下で、毎日りんごの樹の剪定を一人で繰り返していた。プルーニングタワーという作業位置を上下して高さを調節、且つ移動できる機械に乗りながら、ラッパー(日本で言う植木鋏のような道具)を使い、矮化樹へ更新する前の大木を相手に朝から晩まで剪定していた。冬の間、8時から仕事が始まり、昼1時間休憩、夕方5時までが労働時間だった。朝は比較的時間があったので、ゆっくりとテレビを見ながら朝食を作ることができた。当時、日本でも白黒テレビが珍しい時代に変化していたが、トレーラーハウス備え付けのテレビは白黒だった。
ある日、1月末か2月始め頃だったと思う。朝、テレビのスイッチをつけると、どこかの局の白人女性アナウンサーがいつものように出てきた。もちろん音声は英語だった。当たり前なのだが、「変」だと思った瞬間、急激な吐き気に襲われた。画面の白人女性が「気持ちわるい」と思った。食べ物にあたったわけではなかった。体と頭が分離していたような気分だった。たぶん、当たり前の状況を体が拒否したとしか思えなかった。生理だけが別の反応をしたとしか考えられなかった。
今まで目に映っていた事象は、単に映っていただけなのかもしれない。急に脳味噌のスウィッチが入り、現実を認識するのに可能な状態になったとしか考えられなかった。アメリカに着てから半年以上経っていた。
日本に戻ってから別の形で同じようなことが起こった。
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